LOHACOに関わる全員がデータ分析ツールを使いこなす
高城さんはLOHACO配属当初は「ECマーケティングラボ」というメーカーとの取り組みの事務局、
その後データを扱う部門のマネジャー、事業企画のマネジャーや部長を担当。
──アスクルはよりデジタル人材の育成を掲げ、独自の研修プログラムをスタートしています。高城さんの担当するLOHACO事業では、どのようなプログラム内容に取り組んでいますか。
LOHACOに携わるメンバーは全員が数字で語ることを目指しているため、今年度からデータ分析を学ぶための育成プログラムをつくり取り組んでいます。 元々LOHACO事業にはデータ分析の部門があり、事業全体の分析をしたり、メーカー様への分析結果の提供などを行ってきました。
しかし、データ分析の部門に任せるだけではリソースに限界があり、施策をクイックに実行することは叶いません。そこで、この3〜4年は、LOHACO事業のさらなる成長のために、全員がデータを見れる環境の構築を目指し、自身の担当の売上集計をできるようにしようと取り組んできました。
その結果、ほとんどの人がデータ分析ツール「Tableau(タブロー)」を使って数字を見ることができるようになりました。 次のステップは、ただ数字を見るだけでなく、より深く分析できる人を部門ごとに配置することです。そうすれば、データ分析の部門に頼らず、課題により早く対処できるようになります。
週2〜3回、1on1で進捗状況や困り事を共有
──全メンバーが対象者ということで、現場社員だけでなく高城さんら管理職の方も受講されているのですね。
今年の育成プログラムの対象者は10人。内訳は、LOHACO事業配属の新入社員全員と、各部門の運営上必要なデータ分析を担えそうな若手社員、そして私と事業企画の統括部長の2人です。統括部長を対象に入れたのは、マーケティングと事業企画は特にデータを見ることが多い部門なので、その2人がデータ分析をできるようになった方が、LOHACO事業全体のPDCAをより速く回せるからです。
具体的には7〜8月の1カ月半をかけて、オンラインで集合研修を行いました。内容はLOHACOの事業構造、タブローの使い方、データの構造、SQLの書き方など、全体で約20時間になります。研修は振り返られるようにアーカイブを残しているので、私の部門では受講者以外の人にも学習してもらい、部門全体で知識を底上げするようにしています。 ただ、座学で学んだだけでは忘れてしまいますし、わかったつもりでいても、実際に使って見るとわからないことが必ず出てくるものです。
そこで、9月から半年間は、2カ月に1本、1人ずつテーマを決めて、座学で学んだスキルを使って、実際の事業課題について、分析してアウトプットを出す取り組みを行います。実際の課題をテーマとすることで、アウトプットも施策の検討に使えるので、一石二鳥の効果が得られています。一人ひとりOJT担当者についてもらい、週に2〜3回、1on1などで進捗状況や困っていることを確認しながら分析を進めていますね。
データを分析していかに顧客単価を高めるか
──なぜLOHACO事業において、数字を見ることが重要なのでしょうか。
LOHACO事業はお客様に1回のお買い物でより多くの商品を購入いただくことが重要ですから、データを分析して何の商品がどういう時にどれだけ、どのように売れているかを把握する必要があります。
LOHACOのようなEC事業は、Yahoo!ショッピングなどのモールビジネスと異なり、サプライヤー様やメーカー様から直接商品を仕入れて販売し、その売買差益が当社の収益になります。取り扱う商品は日用品が中心のため、元々利益が決して高くはないところへ、さらにピッキングや配送コスト等がかかるため、利益を上げるのが非常に難しい事業構造と言えます。
そのため、物流効率を高めて利益性を担保するために、お客様の1回あたりのお買い物の単価(=オーダー単価)を高めることが重要というわけです。 そのほか、LOHACO内に広告枠を設けたり、LOHACOで商品がどのような売れ方をしているかをデータ分析して、メーカー様に提供するビジネスも行っています。LOHACOの事業を伸ばすことに加えて、メーカー様の売上をさらに伸ばしていくためにもデータ分析は必要です。
例えば、最初にLOHACOでテストマーケティングをして、その結果を踏まえて一般に販売するというケースもあります。成功例として、大王製紙さんと共同開発した「エリス 素肌のきもち 超スリム シンプルデザイン」の限定デザイン商品があります。生理用ナプキンにはかわいいデザインのものが多いですが、持ち歩いても違和感のないシンプルなデザインのパッケージにしてLOHACOでテスト販売をしたところ、SNSでも話題になり、今ではドラッグストアなどでも購入できるようになっています。このような取り組みももっと増やしていきたいですね。
LOHACOと大王製紙が共同開発した「エリス 素肌のきもち 超スリム シンプルデザイン」
フラットな組織風土がチーム内の学習を促進
──LOHACO事業部においてデータ分析はいわば新領域の学習になりますが、メンバーにはすぐに浸透していったのでしょうか。
はい。特にLOHACOではそうした意識が根付いていて、近年より高まっているように感じます。
例えば私が部長を務めるLOHACOのマーケティング部門では、約15人のメンバーが持ち回りで、毎日誰か1つずつ、Webマーケティングに関するお勧めのWeb記事や書籍などをSlackで紹介する活動をしています。マーケティングの知識がまだ十分だと思っていないので、このような仕組みでみんなに勉強する機会をつくってもらうようにしています。
またLOHACO事業にメインで携わっているのは200名ほどですが、中途社員も多く、マーケティングの知識レベルにばらつきがあったので、それを揃えるためにグロースXのマーケティング学習アプリも導入してきたという背景があります。チームで上司と部下関係なく学ぶことで「私もここ悩んでいるんだよね」といったことを共有でき、新卒入社のメンバーはとても気が楽になるようです。
そういう面でも、管理職とメンバーが一緒になって学ぶ効果は大きいと思います。
女性管理職比率は6年で9.8%増の22.1%に
BtoC事業は成長性が高くインターネットの醍醐味が感じられる事業だと言う。
──元々の組織風土も関係しているのでしょうか。
そうですね。アスクル全体としてそう言えるのですが、LOHACO事業はとてもフラットな組織風土があります。私の部門では管理職はほぼ30代で、ここ数年、特に若い世代が登用されて活躍するようになってきました。
また、女性管理職比率も、2014年の12.3%から2020年には22.1%まで伸長しました。部長以上の管理職にも女性が多いです。 私は昨年から今年にかけて産休・育休を取得したのですが、職場に戻ってくると、部長から1つ上の統括部長に登用されました。
社内では、ボトムアップの提案でも、ロジカルに説明できる内容であれば採用されます。そういう意味では、年齢性別関係なく活躍できる会社ですし、そうした背景も手伝い、学習が浸透しやすいのだと思います。 また、私はヤフーに新卒で入社して、ベンチャーに転職後、2016年にヤフーに再入社しアスクルへ出向しております。アスクル原籍社員と出向社員が、会社の壁を越えてフラットに活躍しているのも、LOHACOの組織風土の大きな特徴です。
さらに事業においても、グループ間で効果的に連携しています。LOHACOのプロモーションに関しては、Zホールディングス内と連携しYahoo!ショッピングへの出店を経て、そこからさらにソフトバンクやヤフーと組んで「サイバーサンデー」というプロモーションが生まれ、売上が拡大しました。最近ではPayPayが全国的に普及していることもあり、PayPayと一緒にプロモーションに取り組むことも増えています。
上段中央はグッドデザイン賞も受賞した「LOHACO Water 410ml」
LOHACOの売上高は前期比2.8%増の543億円
──こうした研修プログラムによって、今後どのような効果が期待できそうですか。
例えば、LOHACOの本店とYahoo!店を比較すると、本店の方がLTV(顧客生涯価値)が高い傾向にありますが、私が今回の座学で学んだことをベースに2つの店舗の利用状況を改めて分析したところ、Yahoo!店のみを利用しているお客様や、両店使っていてもYahoo!店でのお買い物が多いお客様がまだまだ多くいらっしゃることが分かりました。そこで、分析内容をもとに、お客様にもっと本店でお買い物をしていただくための施策を提案したところ、合意を得られ、今後継続的に施策を実施することになりました。
このように、今後データを分析できる人の数が増えていくことによって、出てくるアウトプットの量も増えることが期待できます。求められるKPIはどんどん高くなっていくので、新たな打ち手をどんどん考えられるようになるという意味で、このような研修プログラムによる新領域の学習(リスキリング)は非常に重要だと思いますね。また、今年受講していないメンバーの中に「来年は受けたい」という声も挙がってきており、取り組みを始めたことの波及効果も感じています。
LOHACOは今年で10年目になり、2022年5月期のLOHACOの売上高は前期比2.8%増の543億円で、2023年5月期はさらなる伸長を掲げている中で、オーダー単価の向上、固定費削減、広告の強化、Zホールディングスとの連携強化に務める一方で、足元の一つひとつの施策も重要視しています。
例えば現在はトップページに載せるバナー1つをとっても、どんな情報を載せればクリック率が上がるのか、担当者が細かくチェックしながら日々取り組んでいます。他にもLOHACOのオリジナル商品を訴求する場合に、単に「オリジナル商品ができました」ではなく、「お客様のこういう課題を解決できる商品です」とバナーに載せることで、クリック率が1.5~2倍ほど上がる傾向が見えています。
そうしたノウハウを蓄積していきつつ、どこにどのような投資をすれば、より効率よくお客様を連れてこられるかを見極めるためにも、データ分析の学習にさらに注力していきます。
(クレジット) 構成=増田忠英 撮影=的野弘路