NTTドコモはなぜ、過去の成功体験を捨てて新たなマーケ組織を立ち上げたのか

取材記事記事一覧

2023-01-25

(写真左から)グロースX 取締役CMOで株式会社NTTドコモ スマートライフカンパニー コンシューママーケティング部シニアマーケティングディレクター西井敏恭さん。
株式会社NTTドコモ スマートライフカンパニー コンシューママーケティング部長 伊藤邦宏さん。

2022年7月、株式会社NTTドコモは事業拡大と収益創出の中核として位置づけているスマートライフ事業の成長を加速させるため、社内カンパニー制を導入して「スマートライフカンパニー」を設立しました。

「dポイント」「dカード」「d払い」「dTV」「dアニメストア」など数十のサービスを擁するスマートライフカンパニーでは、各サービスのマーケティング機能をコンシューママーケティング部に統合して、カスタマーファーストのマーケティングを展開しています。

それまでサービスごとに活動していたマーケティング組織をどのようにまとめていこうとしているのか。コンシューママーケティング部長の伊藤邦宏さんと、外部から招聘されてシニアマーケティングディレクターに就任したグロースX 取締役西井敏恭が語り合いました。

 

伊藤邦宏(いとうくにひろ)さん

株式会社NTTドコモ
スマートライフカンパニー コンシューママーケティング部長
明治学院大学社会学部卒業
1997年株式会社NTTドコモ入社後、法人部門の営業に従事。その後、スマートフォンにおけるネットサービス、クレジット・決済事業、ポイントビジネスなどの新規事業の立ち上げに携わる。
2019年よりメディアビジネス中心にスマートフォンにおける様々な事業・サービス・アライアンスの企画・運営やデジタルマーケティングビジネスを担当。出資・提携先企業の取締役等も兼任。2022年より同社コンシューママーケティング部長に就任。

西井敏恭(にしいとしやす)さん

株式会社NTTドコモ スマートライフカンパニー コンシューママーケティング部 シニアマーケティングディレクター/グロースX 取締役CMO 金沢大学大学院卒業。2001年から世界一周の旅に出る。帰国後、旅の本を出版し、ECの世界へ。2014年に二度目の世界一周の旅をしたのち株式会社シンクロを設立。大手通販・スタートアップなど多くの企業のマーケ支援やデジタル事業の協業・推進を行う。兼任としてオイシックス・ラ・大地株式会社 専門役員CMT・株式会社シンクロ 代表取締役社長など。

ドコモには「もっと統合しましょう」とずっと言ってきた

コンシューママーケティング部は顧客とのエンゲージメントおよびサービスのセールスや販促を強化するため、
ポイント・決済をはじめとする各種スマートライフ事業のマーケティングを横断的に担う。

――スマートライフカンパニー設立の経緯を教えてください。

伊藤さんドコモは携帯電話事業が基幹事業ですが、他の事業にも取り組んでいかないと成長は難しい。成長のドライバーとして位置づけているのが、インターネット事業やクレジット事業などのスマートライフ事業と、大企業から中小企業まですべての法人のお客さまをワンストップでサポートし価値提供する法人事業。前者の成長を加速させる目的で新たに設立されたのがスマートライフカンパニーです。

もともとドコモには、「dTV」のようにコンシューマーのお客様に直接提供するサービスを扱うスマートライフビジネス本部と、「dポイント」のように、ユーザーがサービスを利用しながら企業にプラットフォームを提供していくマーケティングプラットフォーム本部がありました。今回それを合併した形になります。

西井これまでは各サービスがユーザーに対して個別にマーケティングを行ってきました。しかし、統合的にマーケティングを行えば、ユーザーにより最適な形でサービスをお届けして、なおかつドコモとのエンゲージメントを高められます。私は以前からドコモと一緒に仕事をしてきて、「もっと統合しましょう」と言っていたんです。すると、伊藤さんから「スマートライフカンパニー設立に合わせて、各サービスのマーケティングを統合したコンシューママーケティング部をつくる。西井さんが中に入れば、僕らにやれって言ってたことをやれるよ」とお誘いを受けて、今回社内の人としてジョインさせてもらいました。

バラバラの縦割り組織を束ねるための2つの軸

――マーケティング統合で「カスタマーファースト」の強化を打ち出しています。狙いを教えてください。

伊藤さん今までも各サービスはそれぞれのサービス担当者がユーザーに対して最適なものを提供しようという想いでやってきました。例えば「dポイント」なら、dポイントクラブ会員に「こうするとポイントがお得です」というマーケティングをやってきたわけです。これは単体のマーケティングとして最適解だったでしょう。しかし、dポイントクラブ会員に対して、その人に最適なタイミングで「こういうコンテンツもあります」「こんなサービスのクーポンがあります」と伝えれば、エンゲージントをさらに高められるかもしれません。単体ではなく全体としてお客様に価値を提供したいという意味で、今回、組織の目標として「カスタマーファースト」を設定しました。

以前より株式会社NTTドコモで仕事をしてきて、2022年7月からシニアマーケティングディレクターに就任した西井。
中に入って株式会社NTTドコモに根付く、真摯なカルチャーを感じていると言う。

――カスタマーファーストを実現するため、マーケティング組織としてどのような取り組みを行っていますか。

伊藤さんこれまでは各サービスの縦割りで物事を見てきたので、まずはユーザーが何を望んでいるのかという見える化を進めて共通の土台作りをしています。また、各サービスでマーケティングのスキルに濃淡があることも課題の一つ。うまくいった施策を水平展開したり、ノウハウの共有を進めるための会議体も設定しています。

西井従来は考え方やKPIが各事業部によってバラバラでした。そこで考え方に関しては、「顧客起点」と「シンプル」という2つの軸を打ち出して、これをベースにしてもらうことにしました。また、KPIも横で連携が取れるように設計し直しています。たとえば従来はサービスによって「ロイヤルユーザー」「離反」の定義が違ったり、あるサービスはCPAやLTVを指標にしているのに、別のサービスは同じものを図るのに認知度を指標にしているケースもありました。これでは統合的なマーケティングは難しいので、KPIの統合を進めています。いわば共通言語づくりです。

大企業の利害関係を越えた「社会インフラになる」という想い

「各種サービスを横断した取り組みにあたり、社員とのコミュニケーションを可能な限り重ねています」(伊藤さん)

――統合にあたって、現場からの反発や混乱は?

伊藤さんコンシューママーケティング部には協力会社の社員の方々を含めて約1300人が集まりました。現在はスタートして4カ月でユーザー理解のやり方を統一して見える化が完了したところ。全員で目線を合わせていくのはこれからですが、まずは社員とのコミュニケーションを重ねて共通の価値観をあわせていくしかないと考えています。今はまだ頭でしか理解していない人も、クイックウィンで数字が上がってくれば納得感を持てるのではないでしょうか。

西井自分の部署内だけでなく、各サービスでプロダクトやコンテンツをつくっている他の部署のチームとの考え方や言語を共有することも大切だと考えています。大きな組織は社内で利害関係が生まれがちだし、さまざまな目線があると論争になりやすい。しかし、顧客起点で考える会社になるという目標を共有すれば、論争になりません。

伊藤さんサービスをつくっている各部署とはできるだけ直接話をしています。心掛けているのは、サービスの未来像や目標値など相手の考えをきちんと理解したうえで、こちらの狙いを伝えること。また、たとえば決済系のチームにエンタメ系の話をするなど、各サービスを超えて情報を共有することも意識しています。みんな縦割りになりたくてやっていたわけではないので、きちんと話は聞いてくれますね。

西井外から来てわかったのですが、ドコモのみなさんは真面目で、社会のインフラにならなくてはいけないというマインドが強い。そうしたカルチャーがあるからか、サービス開発側に「顧客起点で一緒に開発をやりましょう」と施策相談会を開くと、「自分たちで勝手にやる」ではなく、「こういうことをやりたいからインプットが欲しい」と集まってくれる。そこは心強いですね。

リモート勉強会に社員1000人が自主的に参加した理由

――マーケティング人材の育成についてはどのように考えていますか。

西井ドコモはジョブローテーションがあって、マーケティングの担当になっても2、3年で異動があります。僕自身さまざまな会社で兼業することで知見を増やしていますが、ドコモはいくつも事業を持ってるのでそれが社内でできる点が強みです。ただ、ローテーションするがゆえにマーケティングのスキルが積み上がりにくい面はあります。一方、人事制度の改定を機に専門職として長期にわたってマーケティングをやる人も増えてきたり、マーケティング自体は他の部署にいっても使えるスキルですので、うまくバランスを取りたいところです。

「現在はコンシューママーケティング部の全社員を対象に、毎週3〜4時間のオンラインミーティングを行い顧客起点の考え方などをお伝えしています」(西井)

伊藤さん人の育成についていうと、今のところ座学は重視していません。人の成長には、双方向のコミュニケーションと実案件での実践がより重要だと考えています。ですから会議は録画してオープンにしているし、そこで共通言語が使われるようになったのでサービスを超えてノウハウを共有しやすくなったのではないでしょうか。

西井世の中には、学びの場がクローズドになっているせいで、成果を出したくても出し方がわからずに苦しんでいる人が少なくありません。その意味で、ドコモは学びがオープンになっていることが魅力です。僕がやっているリモートの勉強会に、コンシューママーケティング部以外の方も含めて1000人が参加したこともありました。みんな変わらなくてはいけないという危機感が強いのでしょう。

伊藤さん危機感もありますが、うちの社員の人たちは「ユーザーに良いものを安心して使ってもらえるサービスを提供したい!」っていう想いは強いんですよ。そのためにうちの社員はみんな遠慮なく意見を言ってくれますし、オープンに議論できる環境を整えていくことが人の育成では重要だと思っています。

マーケターも羨む「リスト500万人」という圧倒的なアセット

――ドコモのマーケティングはどこに強みがありますか。

伊藤さん1つは会員基盤でしょう。dポイント会員はモバイル回線ユーザーを含めて約9000万人近くいます。それが決済・金融事業やエンタメ事業などと紐付いて、ユーザー数やトランザクションが増加していることからも、会員基盤を強みとして使えていることがわかります。たとえば共通ポイントサービスは後発でしたが、今や数千万ユーザーがdポイントを使っていて、業界内でのシェアも上がっています。会員基盤の持つポテンシャルは非常に高いと思います。

西井これだけ会員基盤が大きいと、たとえばプッシュ通知のABテストを100万通で一瞬のうちに比較できたりします。1000通程度だと誤差が出やすく、精度を高めるために増やせば時間がかかります。短期間に精度の高いテストができる環境は、マーケターからするとすごくうらやましいのです。ところが、社内にはこれが普通だと思っていて、「メルマガ抽出してリストが500万人しかありません」と言う人もいる。そのたびに、「すごいことだから」とツッコミを入れてます。

伊藤さんそれを言ってもらうために西井さんにきてもらったんです。もう1つ、ドコモショップという対面のチャネルがあることも強みでしょう。インターネットビジネスはユーザーが直接見えづらいことが難点ですが、ショップはまさにカスタマーファーストでお客様と向かい合っています。お客様のリアルな声を上げてくれるショップは大切な存在です。

西井伊藤さんは直接ショップに行ってヒアリングしていますよね。ショップを単なる営業の場ではなく、お客様を深く理解する場として使いこなせるようになれば、さらにマーケティングも高度化するでしょう。

――最後に、スマートライフカンパニーが目指すマーケティングの姿を教えてください。

伊藤さん私たちが今キーワードとして掲げているのが「顧客起点」と「シンプル」です。これまではサービスが複雑でわかりにくいこともありました。今後はカスタマーファーストであることに加えて、ユーザーの皆さんに物事をシンプルに伝えることを意識してマーケティングを展開していきます。近いうちに、それに沿ったマーケティングプランを出す予定です。楽しみにしていてください。

 

構成=村上 敬 撮影=的野弘路

部下が「自走できる」強いマーケティング組織をつくりませんか?

・営業・マーケなどで知識にバラツキがあり、
 議論が噛み合わない
・マーケティングが分かる人材が不足している
・優秀なマーケターを採用できたが、メンバーとの
 リテラシーの差が大きい
・代理店・ベンダー依存の意思決定から脱却したい

もしもこのような課題がありましたら、
数々のマーケティング書籍を出版してきた
マーケティング人材育成のプロ監修の「グロースX」
で解決できる本資料をお読みください。

資料は無料でどなたでもご覧いただけます。