【セミナーレポート】「皿洗い」から始めるBtoBマーケティング ~生々しいけど勇気が出るはなしを実践者が語る~

取材記事

2023-08-31

※本記事は2023年7月に開催されたセミナーのレポートです

コロナ禍を経て、多くのBtoB企業がマーケティングや営業のデジタル変革(DX)を進めています。しかし、営業プロセスの改革や新たなマーケティング組織の創設など、DXによる変化に対して抵抗感を抱くビジネスパーソンも少なくありません。

そうした状況の中、現場からの信頼を獲得し、今の時代にふさわしい改革を推進するために、マーケターはどのような役割を担えるでしょうか?

この問いに答えるために、コニカミノルタジャパンでマーケティング組織の立ち上げを牽引した富家翔平氏をゲストとして迎えたセミナーを開催しました。事業部への支援を「皿洗い」と表現する真意に迫りながら、戦略的なマーケティング施策を遂行した「実体験」を明かします。

「皿洗い」が必要だと語る真意に迫る

山口 今日のテーマは「皿洗いから始めるBtoBマーケティング〜生々しいけど勇気が出るはなしを実践者が語る〜」です。

皆さまの頭に「BtoBマーケティングと皿洗い、どう関連があるの?」という疑問が浮かび上がっているかもしれません。

BtoBマーケティングに取り組んでいると、苦労も多いと思います。そうした中で、生々しく勇気が出る話をコニカミノルタジャパン マーケティングセンター マーケティング企画部部長の富家翔平さんをお招きしてお送りします。

山口 義宏
株式会社グロースX 取締役COO
インサイトフォース株式会社 取締役
1978年、東京都生まれ。ソニー子会社で戦略コンサルティング事業の事業部長、リンクアンドモチベーションでブランドコンサルティングのデリバリー統括などを経て、2010年に企業のブランド・マーケティング領域特化の戦略コンサルティングファームのインサイトフォースを設立。 BtoC〜BtoB問わず企業/事業/商品・サービスレベルのブランド~マーケティング戦略の策定、CI、マーケティング4P施策の実行支援、マーケティング組織開発及びマーケティングスタッフの育成を主業務とし、これまで100社を超える戦略コンサルティングに従事。 2021年より株主および戦略アドバイザーとしてグロースXに参画。2022年6月、同社取締役COOに就任。
著書に『マーケティングの仕事と年収のリアル』、『デジタル時代の基礎知識 ブランディング』、『マーケティング思考 業績を伸ばし続けるチームが本当にやっていること』など。

 

富家 コニカミノルタジャパンでマーケティングの仕事をしている富家と申します。約5年半の在籍期間に、事業部内のマーケティング組織の立ち上げ、その後は全社のマーケティングを担当するようになりました。そうした中で「皿洗い」が大事だと考えるようになった背景を、今日は皆さんに共有したいと思います。

富家 翔平
コニカミノルタジャパン株式会社
マーケティングセンター マーケティング企画部 部長
「営業プロセス改革×マーケティング推進」プロジェクトを牽引し、マーケティング組織の立ち上げを担う。マーケティングセンターの新設に伴い、全社マーケとして、事業部と連携した戦略的なマーケティング施策の実行による事業貢献に挑戦している。BtoBマーケティング・セールスをテーマにしたイベントやセミナー、メディアへの登壇実績多数。

 

コニカミノルタ内でのマーケティングチームの役割

富家 コニカミノルタジャパンの組織構造を紹介します。当社は営業部と事業部の2つの主要組織に分かれており、基本的には事業部内には営業機能がありません。さらに昨年、新設されたマーケティングセンターは、営業部や事業部とは独立した位置付けになります。このセンターは、事業部が担当しているプロダクトマーケティングの支援や、営業部と事業部のコミュニケーションハブとしての役割を果たしています。

私は2018年に中途入社し、事業部のマーケティング担当からスタートしました。少しずつ担当領域が拡大し、現在はマーケティングセンターで様々な事業を担当しています。

山口 たった4年で部長に昇進するのは、とんでもない出世ですね。

富家 いえいえ、マーケティングのスキルを持つ人材は、やはり社内でも限られていますよね。ただ、会社としては必要な役割なので、運が良かったと思っています。私はBtoB企業のマーケティング組織の型は、以下の図のように4つあると考えています。

①全事業部の横串し組織、②独立組織、③広報宣伝部・販売促進などと集約、④事業部の中のマーケティング組織です。この中で言うと、私が所属するマーケティングセミンターは3つ目の立ち位置になります。この役割をファネルに表すと、次のようになります。

左から右へと流れていく中で、広報・宣伝からインサイドセールスまでマーケティングセンターが担う機能です。例えば、事業部が「ウェビナーをやりたい」と言ってきたら、その実現を私たちが担います。「商談機会創出」までがマーケティングセンターの管掌範囲になります。

山口 かなり広い範囲ですね。

富家 そうなんです。実際、商談をつくる過程には、たくさんの実施事項があります。現在私たちは分業モデルに着手していますが、いわゆるマーケティング、インサイドセールスなど部署で分けるというシンプルな考え方はしていません。下記の5つの形で組織を分けています。

ポイントは、我々の目的に合わせて組織をつくっている点です。冒頭でコニカミノルタジャパンでは営業部と事業部が分かれているとお話しましたが、例えば、Dの型では、インサイドセールスがリード創出から商談までを担い、セールスが出てきません。

この理由は、例えば「鉛筆を売る」という事業があったとして、今まで営業担当が鉛筆を売る経験がなければ、いきなり「鉛筆を売れ」と言われても難しいですよね。ソリューション営業に代表されるような専門知識が必要とされる場合、事業部にいる詳しいメンバーが最後の受注までを担当したほうがいいケースがあるのです。

また、新規事業でニーズがあるかどうかもわからないタイミングに、マーケティングの人員を配置するのが難しいという面もあります。その場合、リードをつくるためのテレアポや商談機会を得るためのセミナーの企画など、かなり広い範囲をインサイドセールスが担当します。一方で、レガシーな事業は、すでに営業プロセスができあがっている場合が多いので、マーケティングとインサイドセールスに分けるほうが機能しやすいですね。

山口 「型化」が進んでる組織ほど、分業がしやすいということですね。

富家 そうですね。一方で、営業組織として歴史があり人員も多く、新事業の製品を売りづらいという側面もあります。そうであれば、まずは事業部側で売れるようにするというのがDの型です。

山口 まだ売れるかわからない商品に、営業部のエネルギーを割けないですよね。

富家 それもありますし、単価が安いため、営業部の労力をかけられない場合などもあります。

ポイント① 現場のDXを促す「皿洗い」とは?

富家 ここからは、「BtoBマーケティングにおいて大切な5つのポイント」を紹介していきます。

コニカミノルタジャパンもいわゆる「セールスDX」や「マーケティングDX」に取り組んでいます。それを簡単な言葉で表現すると、「商談の機会をがんばって多く作って、何度も受注をいただくぞ」です。

マーケティングでよく使われるナーチャリングやデマンドジェネレーションといったカタカナ英語は、人によって解釈や理解が異なってしまうことが多く、あまり言いたくありません。シンプルに「がんばって、受注するぞ」だけにしています。

その上で、大切な5つのポイントの1つ目は「皿洗い」です。

山口 皿洗い… わかりません。

富家 皆さんは、手を動かす存在を表現するときに「泥臭く」とおっしゃいますが、私は「皿洗い」のほうがニュアンスが近いのでは?と思っています。

何を伝えたいかと言うと、「事業部や営業部で何が起きてるのか」という1次情報を取りに行くことが大事だということと、自分たちの話を聞いてもらうための関係性づくりが必要だということです。偉そうに口だけだと、「うざい」と思われるだけですよね。

事業の中身や状態によって、やるべきマーケティングが違うため、外から見ているだけだと、何が起きているのかわからないし、どう解決すればいいかも言えないためです。山口さんも、そう思いませんか?

山口 そう思います。先ほど、富家さんが「ナーチャリング」という言葉を社内で使っても伝わらないとおっしゃったのは、本当にその通りだと思います。マーケティング用語を既存の組織に極力持ち込まないことが大事ですよね。

富家 おっしゃる通りです。たとえば、現場が抱えている課題を言語化すると、下記の図のようになります。課題がたくさん溢れている状態を表現するために、あえて文字が多いデザインにしました。

例えば、「営業が抱えてる課題」は、お客さんの課題を深掘りできず、物売りに終止している点が挙げられます。また、商材を理解する難易度が高いため、営業の育成が必要ですが、現場の責任者は関心がない。

「コミュニケーションが抱えている課題」では、マーケティングチームから渡した商談の質について、フィードバックする文化がありません。「オペレーションの問題」では、Salesforceを導入してますが、そのデータをチェックする人がいないなどが挙げられます。

一方で、「施策が抱えている課題」では、マーケティングの組織が立ち上がり、ウェビナーを開催したものの10人しか集まらないといった課題もあります。ハウスリストにメールを送ってるだけで、そもそも「リードが足りない」という課題を解決できていないことが明らかになるわけです。

これらの情報は組織の中に入らないと見えてきません。見えていないまま外から「これをやりましょう」と言っても話は進みません。やはり、現場で起きていることを把握しにいくことが重要です。

山口 あるある過ぎますね。大半の会社で起きることですね。

富家 はい、私もこのリストを見ていたら、たまに目から血がでそうになるんです(笑)。たとえば、現場が抱える課題を教科書通りに解決していこうとすると、まずは「マーケティング施策の成果を可視化しましょう」と提案して、実現したくなります。ただし、本気で実現しようとするとすごく難しい。マーケターとしてまず最初にやりたいことですし、やるべきことではあるのですが、なかなか協力が得られずに実現が遠のいてしまうことはよくあると思います。

ここでお伝えしたいことは、客観的に見た「やるべきことの押し付けは、事業部の責任者のやりたいことの実現ではない」ということです。事業責任者からすると、数字を可視化したとして、受注が増えるのか懐疑的だったりします。

山口 「成果を出したい」という気持ちは、事業部もマーケティング部も一緒ですが、考えてる道のりが違うということですね。

富家 そうなんです。道路はまっすぐ伸びているはずなんですが、「こっちのほうが近道じゃん」と、急に山を登り始めたりするんです。

山口 お互いの正義がありますからね。反れた道に行こうとしてる人は、そっちのほうが、その人なりの成果につながる最短距離だと信じる成功体験があるんですよね。

富家 はい。私はこれまでマーケティング組織を小さく立ち上げたり、他部署から入ってマーケティングを一緒にやりましょうと提案したりする立場を経験してきましたが、相互理解が本当に難しい問題だと気づきました。

この解決には、最初の話に戻りますが、やはり「皿洗い」からはじめることが重要です。

現場で何が起こっているのか情報を取りにいき、一緒に皿を洗って初めて同志として見てもらえます。その上で「道はそのまままっすぐで良さそうですね」というコミュニケーションが成立するのです。

これを履き違えて「あいつらわかってない」と文句を言ったり、自部門に閉じこもって「うちはリードだけを集めます」「面白そうなイベントだけやります」だと、やはり溝が生まれてしまいます。

ポイント② お客様の役に立ち、商談機会をいただく

2つ目のポイントは、「先に役に立つことで、後に商談機会をいただく」です。

山口さんにお伺いしたいのですが、お客様から商談機会をいただくハードルが上がっていると感じませんか?

山口 はい、上がり続けていると思います。

富家 私もそう思っています。特に世の中のコンテンツ量が増加したことが背景に挙げられます。お客様側に「あなたについて知っている」と「話を聞いてみたい」という気持ちがないと、時間をとることに対してネガティブになってしまいますよね。

山口 その気持ち、わかります。最近、個人的に困惑したのは、会社の問い合わせフォームに知らない企業から「ウェビナーに来てください」や「商談日程を入れてください」という連絡がたくさん来ることです。受け手からすると、ありえないコミュニケーションが増えていますよね。

富家 そうですよね。そこで、私たちは商談に至るまでの過程を「認知」「貢献」「信頼・期待」「商談」というフェーズに分けて考えています。

まずは会社として認知してもらう。そして貢献して、信頼・期待してもらって、向こうから「話を聞きたいな」と言われて初めて「対面商談や電話・オンライン商談」ができるのです。

そのときに大事にしたい考えが「コンテンツを通じたポジティブな認知を、対話による人間的な関係性構築へとつなげていく」です。

例えば、いま私はセミナーでお話をさせていただいています。セミナー終了後に参加者に対して「セミナーに登壇していた富家です。30分ほどお話させてください」とメールでご連絡したとします。知らない人よりは話を聞いてみたいと思ってもらえそうですよね。そういうのを一つひとつ丁寧に設計していく必要があると思っています。

ここで大事なのが、その設計を感覚的にやらないことです。私たちが事業部と「目線合わせ」と「指さし確認」のために使ってるスライドを紹介します。

さきほどの「認知、貢献、信頼・期待、商談」というフェーズに「コンテンツの目的」と「コンテンツの軸」を当てはめています。

たとえば、お客様と「信頼」関係をつくりたいというフェーズであれば、コンテンツの目的は「ポジティブに『またコニカミノルタだ!』と思ってもらえる機会を提供し、記憶に残るコンテンツを届ける」になります。

そのためのコンテンツには2軸あり、「トレンド」と「ガイド」です。トレンドは「健全な危機感を持つための潮流の提示」で、事業に紐づく特定のテーマや分野の具体性の高いコンテンツになります。ガイドは「実務者に寄り添う伴走の提供」で、やってみたいをサポートするコンテンツです。

この表をどう使うかと言うと、事業責任者から「ウェビナーをやりたい」と相談が来たとき、「今からやろうとしてるウェビナーの企画は、どこにはまりますか?」と選んでもらいます。

それで、「ピンクの案件化の段階で、サービスの紹介をガッツリする」と言われたら、「新規のお客様にとっては興味があるテーマではないので、集客人数は期待できません。それでもいいですか?」と確認します。このように「やりたい目的とコンテンツが合致していますか?」と、指差し確認をするために使っています。

山口 わかりやすくて、素晴らしいです。

富家 ありがとうございます。もうひとつは、営業部との会話にも使っています。例えば、「貢献」するフェーズであれば、コンテンツの軸は「インスパイア」になり、界隈の著名な方をお招きして、今後のビジネスについて大きなビジョンを話してもらうため、商談にはすぐにつながりづらいと説明します。

さらに、KPIが商談数でないことと、商談までの間にあるコミュニケーション設計の重要性を伝えます。それによって、先日のウェビナーは「全然、商談が取れなかったから失敗だった」という声がなくなります。

山口 日々の視界合わせに使えそうで、感銘を受けています。

お客様はサービスの話を聞きたいわけじゃない

富家 次に私が、セミナーを企画する人に必ず伝えていることを紹介します。それは「お客様は、あくまで自分の課題解決のために情報を探しているのであって、私たちのサービスについて話を聞きたいのではない」ということです。

お客様が探している情報と私たちのサービスが同じになる努力が必要で、そのための工夫が大事ですが、ついついサービスを紹介したくなってしまいますし、サービス紹介がコンテンツであると勘違いしてしまうことがありますよね。

なので、まずは「自社のサービス紹介はコンテンツではない」と自覚することがスタートだと伝えています。山口さんも「自社ウェビナー=自社紹介」は、よくないと思いませんか?

山口 そうですね。第3者視点で相手の知りたい情報を提供して、その後に自社の言いたいことを伝えるというように、情報をサンドイッチにしないと厳しいですよね。

富家 まさに、山口さんにおっしゃっていただいた通り、情報を受け取る側の立場で考えることが一番大事です。

よくあるのが、LPをつくった時に、とても長い文章が続き、最後にコンバージョンポイントとしてお問い合わせがあるという構成です。私が「お問い合わせの位置が下過ぎませんか?」と聞くと、「最初から最後までじっくり読んでいただいて、納得してから問い合わせをしてほしい」と返事がきます。その気持ちはわかるのですが、最後まで読んでもらう前提で設計してしまうのは、もしかしたら相手の立場に立っていない可能性があります。

山口 相手の立場になることは、永遠の課題ですよね。マーケティングに限らず、幼稚園でも教わることだと思うんですが、なかなか難しいですね。

富家 はい、ビジネスパーソンの必須スキルだと思います。山口さんにもお墨付きいただいて、すごく嬉しいです。

やはり共通理解をつくって、同じ目線で物事を考えるということが、あらゆることのショートカットにつながると思っています。グロースXもそういうコンセプトで、サービスを提供されているんですよね。

山口 はい。私たちがよく言うのが、一発の決め打ちでヒットなんて生まれないということです。商品もセミナーもコミュニケーションも永遠のベータ版です。お客様に提供して、ずれに気づいて直してを繰り返していくことになります。

この活動は、部門横断ですよね。そのときに、共通言語がないといけないんです。社内で連携する上で鍵となる考え方や、それをすり合わせるための視界共有のフレームワークが一番大事な組織の基盤になると考えています。

ポイント③ 実行力が鍵になる

富家 続いて3つ目のポイントは、「事業カットのチームと機能カットのチーム」です。

私が一番重要だと考えてることは実行力です。やはり、責任者であればあるほど、実行力の調達が必要になると思うんです。

山口 リソースが必要ですね。

富家 はい、スキルもお金もそうです。スムーズにいくために頭を下げに行くこともありますし、赤提灯で乾杯をしないといけないときもあります。それらを含めて実行力だと思っています。

社内では、必要な施策を的確に企画し、持続可能性の高い状態で成果を上げ続けるための一連の活動を「マーケティングオペレーション」と表現しています。次の図のように、分析、戦略、企画、実装、運用、計測、改善が大きな一つのサイクルだと思っています。

これを「全社マーケティング」、「事業マーケティング」、「その他」など組織や役割で分けた場合、真ん中の「事業マーケ(ピンク)」のように、組織のフェーズによっては歯車(人・スキル)がない場合があります。

そこで、事業部がやりたいことをきちんと実現できるように、私たち全社マーケがリソースを提供します。図のように、ピンクの歯車と歯車の間に、全社マーケから黄色い歯車をはめていくイメージですね。

一方で、私たちのリソースも限られているので、他部門のメンバーやパートナー会社にもお願いをしています。そうすることで、全部の歯車がガチっとはまって、やりたいことをできるようにしていくようなオペレーションを作っていきたいと思っています。

山口 すごく共感します。グロースXの創業者のひとりである西井敏恭は自分が方針や戦略を立てても、メンバーの実行力がないと機能しないことに課題を感じて、個人でセミナーを開いて人力で育成していたんです。

ある時、複数の会社で同じことを教えていると気づいて、それならば仕組み化できるはずだと、グロースXを立ち上げました。この歯車が噛み合うチームをつくらないと結果が出ないから、その関わる全員を引き上げることを仕組み化して生まれたのがグロースXです。

富家 その考え方と近いですね。実行力の調達は本当に重要です。責任者が調達への意識がないと、今いる人員だけでやろうとして、すぐ頭打ちになるんです。それで、駄目だったから、さらにリリースが提供されないという負のサイクルに入ってしまいます。

そのため、たとえば、事業部がウェビナーをやりたいといったときの要望を叶えられるように、Zoomの設定から当日のカメラの配置、メールの配信設定など、ウェビナーを実施するために必要なことを全部支援するチームを作りました。わかりやすく言えば、事業部の方は当日来て喋ってもらうだけで、それ以外の工程は知らなくていいというような環境をつくりました。やりたいことを実現するための調達が必要なく、実現できるようにしたかったんです。

また、ここには別の狙いもあります。マーケターもひとりの人間として葛藤を抱えています。例えば、売上目標に対して1億円のギャップがあり、このままだと未達なので、もう一回ウェビナーを開催したり、ホワイトペーパーを作ったりしないといけない、と考えますよね。ただ、もう半分では「やりたくない…仕事が増える…」とも思うわけです。そのため、施策の意思決定をする人と、実行する人を分けたかったという狙いもあります。

山口 現場の重力に引っ張られちゃいますからね。

富家 そうなんですよ。私は心がそんなに強くないので、やりたくないと思ってしまうのです(笑)。

山口 私は自分が稼働しない限り、「次から次へとやろう!」と言って周囲に迷惑をかけるタイプです。

ポイント④ プロジェクト推進者としての心構え

富家 私の感情が一番盛り上がるのが次のテーマです。「プロジェクト推進者としての心構えと実行のポイント」です。

プロジェクトを進めていると、あるとき「何かを解決するために始まった何かが、その目的を見失ったり、独自解釈が横行してカオスになっていく」事態が頻発します。

山口 目的を見失いがちですよね。

富家 そうです。例えば、セールスフォースなどCRMツールへの入力作業も、本当は営業担当者の生産性向上や売上見込みの精度を上げたい、または、辞めていく人の引き継ぎのための管理など、営業案件を会社の資産とする目的で導入しました。

しかし、いつの間にか「このツールを入れたのは、どこどこの誰々が『俺がやったアピール』をしたいためだ」だとか、「営業を管理したいだけだ!」など、独自解釈が横行し始めるのです。または、誰もそんなこと言ってないのに「マーケティング部門がROIを算出するためにやりたいことであって、営業部はやらされているだけだ」と言い始めたりする。そうなると、ケンカをはじめてしまうのです。

ここで推進者として、本当に大事にしたほうがいいなと思ったのが、4つの壁を認識することです。

例えば、上司が山口さんで、私が部下だとします。私が「こういう施策をやりたい」と言ったときに、山口さんに反対をされたら、まずは山口さんと私との間で、どの壁が立ちはだかっているのかを冷静に考えるんです。<\

まずは「理解の壁」です。上司である山口さんに私の言葉の意味が伝わってなかったのかも知れません。私はテキストで情報をサクッと送っただけだったのですが、本来は資料を作らないといけなかったのかもしれません。

もしくは「合意の壁」であれば、今回のマーケティング戦略がどういう背景なのか、そしてどういう目的でどんな状態を目指すのかを示せてないから、山口さんは「うん」と言えないのかもしれません。このように、どの壁かで承認を得るためにアプローチが変わるのです。

山口 「感情の壁」であれば、グダグダ言っていないで「一緒に飲みに行け」という話ですね。上位者の立場から言うと、全体のリソース配分の中で、本当に優先順位を高く張るべきことなのか、瞬時に判断できず、迷って合意できないということが多いと思います。

富家 まさに「実行の壁」ですよね。やはり、お互いの間にどのような壁があって、コミュニケーションがはばかられてるのかを見極めないといけないと思います。

山口 「皿洗い」は「感情の壁」を超えるわけですね。

富家 はい、「理解」と「感情の壁」に対する解決策です。ある意味、急がば回れで、コスパよく壁を越えられるのが「皿洗い」です。

ここには、もう1つ大事なポイントがあります。マーケティングの仕事をしていると、つい現状の否定のニュアンスが入ってしまいます。

ただ、そうすると相手は「お前に何がわかるんだ!」と反発されることになります。そうなると、箸の上げ下げまで監視・指摘されるような日々が待っています。その結果、自分たちがやろうとしてることの価値を自分たちも信じられなくなってしまい、やろうとしていることの意義を見失い、息切れしてしまいます。

そのため、「安心してください。いまやろうとしてることは正しいので、くじけずにがんばろう」と言い合える仲間が必要です。それらをひっくるめて、自分たちが肯定感を感じることが大事だと思っています。

私はリーダーシップを3つの要素に分解しました。MECEではなく、感情モリモリの表現です。「どうありたいかを決める」「実行できる戦略を立てて、実行にコミットすること」「誰よりも失敗やミスをオープンにすること」です。失敗を恐れていたら、チャレンジはできません。

リーダーは、理想が高ければ高いほど、そのギャップに対して毎日憂鬱になると思います。ただ、憂鬱になる覚悟が必要だと思っています。だから、推進者は毎日憂鬱な日々を過ごしてください(笑)。

山口 リーダーになった人が最初に直面する問題ですよね。自分が抱える課題が全部解決して、スッキリ寝られる日なんて来ないんですよね。

富家 本当にそうなんです。少し抽象度が高かったかもしれないんですが、これが推進者として私が大事にしている心構えです。

ポイント⑤ 成果創出に向けて全体感を掴む

最後のポイントは、「成果を上げるためには、全体感を掴むことが重要」です。

成果創出のためには、5つの力が必要です。それは現状把握力、課題提起力、解決策具体化力、説得力、実行力です。

現状把握力は事業フェーズから、組織の状況、オペレーション、システム基盤まで把握する力です。そこから課題提起力になります。組織としての理想や方針、思考力、指標などを打ち立てます。チームのビジョンやミッションが、掛け算になり成果につながるのです。

解決策具体化力は、Howの部分です。ウェビナー、CRM導入、広告出稿、カンファレンスイベントなど、施策を具体化していく力です。

その次に大事なのが説得力です。ここで必要なのが熱量です。私が毎日1ヵ月間、山口さんに「インサイドセールス部門をどうしても立ち上げさせてください」と言い続けたとき、断りきる自信はありますか?

山口 ないですね。うるさいからやって、と言っちゃいそうです(笑)。

富家 リソースを張る側の人は、誰がコミットして成果を出すまでやりきるかを見ていますよね。

山口 そうですよね。たとえ失敗したとしても、コミットした人だったら、それが学習になって組織としての成長につながりますよね。

富家 最後が先程、お伝えした実行力になります。解像度が高い現状把握から、やるべきことを決めて、実行に繋げていくアクションが必要になります。

現状把握力から実行力まで「どれか」ではなくて「全部」が必要になり、チームとして足りないものは「何となく」ではなくて「これだ」と明確にする。そして、「個別の施策」だけではなくて「全体」をみる。「周囲」ではなくて「自分」。「討論・議論」ではなくて「実行」。こういう意識が必要だと思っています。

感覚的なお話をしてきましたが、B2Bマーケターの端くれとして、やはり全体感の把握が必要だと思っています。

今どれぐらいのリードを抱えていて、それがどんな属性なのか、商談になったお客様となっていないお客様の違いは何なのか、広告のCPAはいくらなのか、商談単価はいくらなのか、WebサイトのCVRはどうなのかなど、全体感を見ながら、今やるべきことを考えていかないといけません。

フレームワークは本を読めばわかりますが、これを実際にできるチームを作ることの大変さたるや。あるいは、本当に機能するチームの希少性は…。ふるさとの景色と一緒ですが、維持する苦労もあります。

山口 提案書を書いて御社は「こうすべきです」「うちの会社はこうすべき」など、口で言うのは簡単ですが、実際に実現できるチームを作るのは本当に大変ですよね。

富家 はい。本日このセミナーを聞いていただいてる皆様が本当にやるべきことは、きっとそこなんだろうなと思います。そこで、私からのメッセージです。

それは「できることからやろう!からの脱却が難しい」ということです。そのときこそ、戦略や理論が必要になってくるフェーズではないかと思います。まさに、「グロースXで基礎知識を高めて、やるべき施策を考えよう」ですね。

富家 最後は、私からのメッセージです。最近、「才能との出会いが戦略を変える」という言葉をすごく実感しています。

チームのメンバーの皆さん、それぞれが才能を持っています。他社の成功事例に惑わされてコピーすると、その才能とのギャップが生まれてしまいます。

他社事例から学ぶことも大事ですが、やはり今いるメンバーを見極めて、その才能に戦略をきちんと合わせていくことも重要です。コンテンツの差別化は、そういったところから実現できると、本当に実感しています。

山口 「才能が戦略を変える」というのは、素晴らしいメッセージだと思います。私たちグロースXもその才能を引き出して成果を出す基盤でありたいなと思っています。今日はありがとうございました。

 

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