デジタル時代のマーケティングを取り巻く環境は大きく変化しています。
(1)顧客体験の変化
(2)マーケティングの変化
(3)人材とチームの要件の変化
(4)人材採用・チーム育成で起きていること
それぞれの変化を順番に見ていきます。
かつてのマーケティングは、テレビや新聞、雑誌、ラジオなどのマス媒体が中心で、今に比べると非常にシンプルな構造をしていました。
例えば、テレビCMは一度出稿すると、その内容をリアルタイムに変更することは困難でしたし、テレビを見ているターゲットに合わせて細かく出し分けることもほとんどできませんでした。
顧客と接する機会が今と比べて限られていたため、何か1つに集中して取り組むマーケティング施策が多くありました。このため、施策事態にかけるエネルギーは非常に大きかったと言えます。また、マーケティングのプロセス全体が明確だったので、各担当者がそれぞれの役割を果たしやすい環境でした。
つまり、マス媒体にほぼ限られた時代のマーケティングは、少ない顧客接点を最大限に活かすために、一つの大規模な施策に全力を注ぎ込むスタイルだったと言えます。
(インターネットやデジタル技術が普及する前)
その後、インターネットやデジタル技術の普及に伴い、企業と顧客が接触する機会は劇的に増加しました。スマートフォンのアプリやSNSを常に利用する消費者は多く、コミュニケーションの手段が次々と増え続けているのがデジタル時代の特徴です。
現在、顧客体験を巧みに設計し提供できる企業とそうでない企業の間には、顕著な差が生じてきています。デジタル媒体や技術を効果的に活用している企業は、顧客と多様な接点を持ちながら、顧客からのフィードバックを基に、プロダクトやプロモーションを素早く修正するアジャイルな体制を整えています。
一方で、インターネットやデジタル技術に対応しきれていない企業は、消費者のニーズに応える機会が減り、競争力を失うリスクと向き合う可能性を抱えています。
このように、デジタル時代の到来により、顧客との接点がオフライン・オンライン問わず爆発的に増えた結果、マーケティング戦略も複雑化しています。そのため、カスタマージャーニーなどを駆使して顧客体験を設計するマーケティング力が企業の成長と成功の鍵とも言えます。
(インターネットやデジタル技術が普及した後)
顧客体験が大きく変わる中、企業が行うマーケティングも大きく変化しています。
・顧客理解×価値の変化
以前は、顧客に関する情報を入手するのは困難で、顧客データの収集や分析はマーケティングリサーチなど調査の専門家に任せるしか方法はありませんでした。
しかし現在では、自分たちで収集した社内に蓄積された定量データや、顧客にインタビューして得られた定性データを組み合わせることで、顧客を理解するハードルが劇的に下がっています。その結果、顧客のニーズや行動を詳細に把握し、より効果的な価値のある提案を行うことができるようになりました。
・ROI~KPI管理の変化
以前のマーケティングでは、ROI(投資利益率)やKPI(重要業績評価指標)の設定において、新規顧客の獲得数や売上が主な評価基準とされていました。
しかし現在では、サブスクリプションモデルの普及がキッカケとなり、「ずっと繋がれる顧客体験」が重視されるようになったため、顧客の継続率やLTV(ライフタイムバリュー)がより重視されるようになっています。これにより、長期的な顧客関係の構築が企業の成長にとって重要な要素となっています。
・人・チームの変化
現代のマーケティングでは、収集される様々なデータを活用し、毎日のようにPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を迅速に回しながら、データに基づく改善を図る手法が有効です。
これにより、外部に全てを任せるのではなく、社内のメンバーがデータを活用しながらマーケティング活動を行うことが求められています。データ駆動型(データドリブン)と呼ばれるアプローチが、現代のマーケティングにおいて重要な役割を果たしています。
このように、複数の顧客層×複数の価値をもとにした数々の施策とWHO/WHATが並列して変化しており、マーケティングの複雑性が上がっています。
デジタル時代のマーケティングが複雑化した結果、チーム要件と求められる人材要件も変化しています。
チーム要件
デジタルマーケティング部門は主に広告運用、SEO、サイト制作などに専念する小規模なチームで、オフラインなどを扱うマーケティング部門とは別に設定されていました。
しかし、現代のマーケティングは、オンライン・オフラインをまたがる顧客体験全般を包括するようになり、マーケティング部門/デジタルマーケティング部門のみならず、情シスや企画、商品開発、営業、カスタマーサポート、物流など関係する部署がマーケティングに関わる必要があります。
つまり、様々な部門が密に連携し、一体となって顧客体験を向上させることが求められています。部門間のコミュニケーションと協力が顧客満足度を高めるための鍵となっています。
人材要件
現代のマーケティングチームは、部門横断した連携を行い、経営層ともスムーズにコミュニケーションを取ることが求められます。そのため、データ活用能力だけでなく、全体像を見渡せる俯瞰的な視点も重要です。
また、迅速に変化する市場環境に対応するために、新しいことを積極的に取り入れる柔軟性や戦略的思考、クリエイティブな発想など、以前のマーケティング職に無いジョブディスクリプション(職務記述書)が求められています。
顧客体験が変わり、マーケティングが変わり、人材とチーム要件が変わったことで、採用や育成の場でどのようなことが起こっているのでしょうか。
人材採用
高度なスキルを備えたマーケティングプロフェッショナルの報酬が高騰し、優秀な人材が希少化しているため、採用の難易度が著しく上がっています。
仮に、プロフェッショナルな人材を採用できたとしても、既存のチームメンバーのスキルレベルと嚙み合わないかもしれません。その場合、プロフェッショナルな人材が組織内で孤立してしまい、チームとしての連携が取れず、成果を上げることが難しくなってしまうかもしれません。
チーム育成
部門横断のコミュニケーションが不足していると、信頼関係の構築が不十分である場合が多く、結果として組織をあげた協力体制が完成しているとは言えません。
また、マーケティング業務の定義や成果の規定が明確でないため、業務プロセスや行動規範が見えにくく、チームメンバーが共通の目標に向かって効率的に働く体制や仕組みが整っていない可能性が高いです。
加えて、知識やノウハウがチーム内で共有される仕組みが整わず、個々の社員の成長が他部署に比べて遅れがちに見えるかもしれません。
変化する人材要件に対応するためには、採用と育成の両面での戦略的な取り組みが不可欠です。企業は、環境変化のメガトレンドを短期的ではなく、長期的な流れとして構造的に捉えて、柔軟な対応と革新的なアプローチを駆使して、マーケティングチームの強化を図ることが求められています。
グロースXが日経クロストレンドと行った共同調査(2024年1月実施)では下記のような結果となりました。
マーケティング人材が足りない・・・71%
組織のスキルが低い・・・55%
人材を育てる場がない・・・56%
育成がOJTに偏っている・・・65%
マーケティング組織の現場では、人材不足、スキル不足など多くの課題を抱えているという状況が明らかになりました。
OJTは重要な育成方法ですが、業務内容やチームの状況によっては目の前の個別業務に偏りがちで、部分最適化が進み、貢献すべき顧客やKGIを見失って視野が狭くなってしまう弊害が発生しています。
特に若いメンバーは、OJTだけでは成長ステップが描けずに離職の原因にもなり、採用コストにも影響します。
本調査結果を無料でダウンロードしていただけます。下記ページをご覧ください。
チーム内外で連携し、成果を出すためには、「社会関係資本」が欠かせません。社会関係資本とは、チーム内外の信頼やネットワーク(関係性)、協力体制を指しています。関係性がしっかり構築できていることで、チーム全体が効果的に機能します。
サッカーに例えると、フォワードはディフェンスやボランチの役割を理解しています。ディフェンスが守ってボランチが前線へパスを繋いでくれることを分かっているからこそ、フォワードは思いっきり攻めることができます。会社や組織でも同じで、全体像を掴み、そこに専門性をかけ合わせることで、組織の力が何倍にもなります。
成果が出ない理由として考えられるのは、施策(HOW)の細部についての知識は充実しているにもかかわらず、「誰に?(顧客理解)」「何を?(顧客価値)」というマーケティング戦略の基本で間違いが生じているケースです。
さらに、「誰に?(顧客理解)」「何を?(顧客価値)」は日々進化しています。進化に対応するための施策も常に見直され、更新されていきます。この変化に迅速に対応するためには、重要なポイントを正確に把握していなければなりません。
上位概念でもある「誰に?(顧客理解)」「何を?(顧客価値)」を提供するかという基本的な戦略。チームメンバー全員が顧客に関する最新の情報とそれに基づく価値提供を共通理解し、共通言語として扱うほうが効果的だと言えます。
チーム全員が共通言語として知っておくべきこと:
・「誰に?」(顧客理解) どのような顧客の、どのようなニーズに?
・「何を?」(顧客価値) どのような価値を提供するのか?
・どのような施策を、どのような評価軸で実行するか?
・施策の概要
この共通言語があることで、チーム内のコミュニケーションが円滑になり、連携が強化され、結果として施策の効果が最大化されます。具体的には、定期的なミーティングやワークショップを通じて、顧客理解や戦略の共有を図ることが効果的です。加えて、具体的な施策の概要と評価指標を幅広く知り、それを「共通言語」とすることが重要です。
データ駆動型(データドリブン)でアジャイルな施策改善を行うためには、組織内のタテ糸とヨコ糸をつなぐ共通言語が不可欠です。この共通言語は、組織全体が一体となって目標達成に向けて協力するための基盤となります。
タテのコミュニケーションは、上層部や経営層に対して投資や組織運営に関する提案を行うものです。経営層が戦略的な意思決定を行う際に、マーケティングチームからの明確で一貫性のある情報が提供されることで、効果的な投資判断が可能になります。これにより、迅速かつ適切なリソース配分が実現されます。
一方、ヨコのコミュニケーションは、部門横断的な連携を促進するために必要です。異なる部門が共通言語を使って情報を共有し、施策を進めることで、シナジー効果が生まれ、全体の効率が向上し、結果として施策の成功率が高まります。マーケティングの範囲が広がり、多様な専門知識や視点が必要とされる現代において、この横断的な連携はますます重要となっています。
(タテのコミュニケーション、ヨコのコミュニケーション)
以上、マーケティングを取り巻く環境変化と、組織における共通言語の重要さについて説明してきました。
デジタル時代において幅広いマーケティングを効果的に学ぶためには、以下のポイントを押さえることが重要です。
マーケティングの知識や技術は日々進化しているため、チーム全員で一緒に学習し、議論する場を持つことが重要です。メンバー間での理解を深め、共通の認識を持てるようになります。また、様々な視点から意見を交換することで、新たなアイデアや発見が生まれたり、相手の置かれている状況や環境の解像度が高まり、業務を遂行する上で参考にもなります。
チーム全員でマーケティングの共通言語を持つことで、円滑なコミュニケーションが可能になります。共通言語は、マーケティング戦略や施策の理解を統一し、チーム連携を強化するための基盤となります。これにより、効果的な施策の実行と成果の獲得が期待できます。
実際の施策や顧客から得られたフィードバックをチーム内で共有し、学び続けることが重要です。過去の成功や失敗から教訓を得て、次の施策に活かすことができます。定期的なミーティングやワークショップを通じて、知識や経験を共有し合うチームを作り上げることで、全員が成長し続ける環境を整えることができます。
変化の激しい時代、学び続け、共有化するチームが、最高の競争優位性になると言えます。
マーケティング人材を育成し、業績を出す組織を作るために、「グロースX」ではスキルを体系立てて網羅的に学べるコンテンツを用意しました。
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