左:森田様 右:北出様
――貴社事業では、データ・AIをどのように活用されておられるのでしょうか?
北出さん:トランスコスモスはグループ内で様々な事業を展開しているため、まずは領域を絞ってお話します。
現在、グロースXのサービスを利用しているのは当社の中で「DEC(デック)」と呼ばれている領域です。デジタルマーケティング(D)、EC(E)、コンタクトセンター(C)の頭文字を取ったものですね。
AIは、デジタルマーケティングやカスタマーケア領域ですでに深く活用されています。デジタル広告なら企画、改善、分析、レコメンドなど。ダイレクトマーケティングなら成約率の高いターゲットリストを用いた売り込み、離反予測など。コールセンターなら、チャットボットや音声認識といった部分です。
データ・AIをいかに活用し、サービスに取り入れ、付加価値を高めていくかは大きな命題です。単純な売上寄与だけでなく、バックオフィス効率化など社内業務においても柱になると考えています。
――コールセンターの効率化なども視野にあるということは、貴社の事業全般においてデータ・AI活用を考えておられるということですね。
そうですね。それぞれのセクションで収益性を高めていくという考え方もあると思いますが、当社ではデジタルマーケティング、EC、コールセンターからBPO業務までのプロセス全体でビジネス展開しています。
その観点からいうと、全体をつなぎ合わせて考えることは必須です。ただ、言うは易く行なうは難しい。個々のサービスをつなぎ合わせる接着剤の役目を果たすのが、データ・AI活用であると考えています。
生産性を高め、全体最適化するためにデータ活用は何より重要。この考え方は、クライアントにも納得いただいていると思います。ここを推進していくのが、われわれの役目です。
――そもそも、貴社がデータ・AI活用を業務に取り入れる意思決定をした背景には何があったのでしょうか?
北出さん:当社が創業当時から掲げている言葉に「People & Technology」があります。Peopleは専門性の高い人材、Technologyは最先端の技術を意味します。
人が行なう業務に単純に人を派遣するのではなく、最新のテクノロジーを組み合わせて生産性を高める。これが、トランスコスモス社のDNAです。これからの時代を考えるとき、「People & Technology」におけるテクノロジーとはデータ・AIのことなのですね。
当社はグローバル全体として「クライアントのデジタルトランスフォーメーション(DX)パートナーになる」という目標を掲げています。そしてDXを実行するにあたり、データとAIは欠かすことのできない要素なのです。
森田さん:そうですね。私たちはグローバルで6.9万人ほどの人間を抱えています。現場メンバーが日々、お客様の業務に対し高品質、高効率な運用サービスを提供することでご愛顧いただいている状況です。
データ・AI活用を業務に取り入れる目的は、弊社の運用メンバーにさらなる付加価値をつけるということです。
われわれ独自のデータ・AI活用プラットフォームを活用することで、コールセンター・WEB・デジタル広告などのデータを統合的に活用できるようになります。データを横串で刺すことで、今までになかった新しい価値を提供することが可能になります。
例えばWEBの導線一つとっても、2万ページ以上を作成しているクライアント企業様もいらっしゃいます。その場合、エンドユーザーの行動動線は、数十億通りになります。
この数十億通りを人間が見て「ここが一番クリティカルな導線だ」と特定するのは不可能です。
データ・AIを活用することで、「この導線のここを解決すれば、売上があと100億円上がります」など、そういう提案をすることが可能になります。
――ここからは「グロースX AI・DX人材」導入の経緯について伺います。導入前、どのような課題があったのでしょうか?
北出さん:社内研修の運営コストが、大きな負担になっていました。弊社は「トラのアナAIアカデミー」というデータ・AIを活用した現場の課題解決、企画立案に長けた人材育成のプロジェクトを実施しています。
こちらは昨年まで私が担当していたのですが、コロナ禍の影響でリモート環境になったとはいえ講師の手配、会場のセッティング、研修運営など大きな負担になっていました。
受講側としても、日々の業務に従事する中で1~2時間、場合によっては半日を潰して参加することとなり、気軽に受けられない部分がありました。社内ですそ野を広げていこうにも、運営側・受講側双方にハードルがありました。
――研修のハードルを下げたい、というニーズがあったのですね。
北出さん:そうです。「より多くの人数に受講してもらい、かつ双方の負荷を下げる方法はないか」と模索しているときに、グロースXを知りました。
内容を拝見し、「このやり方なら、当社の課題を解決できるのでは」と思いました。弊社で教えている基礎知識部分をさらにレベルアップしたものをわかりやすく提供しており、受講者の反応も上々。画面上で対話型の投げかけがされるUIで、「親しみを持てた」「楽しく学べた」という感想が多かったです。
まだまだ学習の途中ではありますが、現時点では目論見通りに進んでいると考えています。
――「すそ野を広げていく」というお話がありましたが、当初はどのくらいの方を対象にしていたのでしょうか?
北出さん:昨年まで、研修の対象者はDEC部門から50人程度でした。ただ、今年はグロースXを導入することで200人前後になりましたので、単純に4倍以上に増えています。
また、参加者の質が変わったことも大きいですね。アプリ形式になったことで、第一線で動いている営業やマネジメント層が参加できるようになりました。これまでのやり方では時間を捻出できなかった層が受講できるようになったのも、大きな変化ですね。
――マネジメント層やエースクラスの方が新しいテクノロジーを身につけることは、大きな意味があります。その点でも価値を感じていただけたのですね。
北出さん:そうですね。社内で勉強会は盛んに開かれているのですが、本来学んでほしい人たちに受講の機会を設けるのはなかなか難しい部分がありました。強制ではなく、気楽に受講してもらう環境づくりは大きな課題でしたね。
森田さん:いつでもどこでも何人でも受講でき、図表や事例も豊富、AIに触ったことがない人も理解しやすい作りになっている。これも大きなポイントです。
大きな効果としては、取締役副社長に受講頂けたことです。データAI活用など新しいものを取り入れるにはトップの理解が重要ですから、こうした層の方が受講すると社内に「これはやらないと」という強力な推進力が生まれます。
――サービス導入後、社内ではどんな声がありましたか?
北出さん:ネガティブな声はほぼないですね。「面白かった」「ためになった」といった反応が大多数です。
特定の意見ではないですが、ポジティブな面としては社内のデータ・AI活用に関する解像度が上がったことが挙げられます。これまでは「とりあえず活用を」という形で、そこにレベル感やグラデーションがある理解は少なかったのです。
例えば業務の一部をAIで自動化するのか、構造ごとディスラプションするのかなどAI活用における議論のベースが、これまではありませんでした。グロースX社の研修によって、社内でAI活用についての共通言語ができ、活用イメージを共有した上で議論できるようになったのは大きな前進です。
今後、社内でデータ・AI活用を進めていく話になったとき、拡張型まで行くのか、日常業務を支援する範囲でいいのか、あるいは「こういうデータがあれば、こういう機能を要求できる」とか、こういう会話が、運用の現場や経営層ともやりやすくなりました。
――経営層から現場の方まで受講いただけたことで、地に足の付いた議論がやりやすくなったのですね。
北出さん:そうですね。例えばPythonの使い方やAIについての一般論は自分で追いかければいい。それより、個々人が直面している業務課題をデータ・AI活用でどう解決できるか、身近なテーマに落とし込まないと自分ごと化しにくいですよね。
ワークショップでは、まさにその「目の前の課題をどう解決するか」をフォローいただけました。単純に概念を学ぶだけでなく、手を動かして学習することができました。学習にメリハリが出ましたね。
森田さん:導入から3カ月の時点で、現場からはすでに400を超えるデータ・AI活用のアイデアが出てきています。「AIって、ちゃんと企画すれば自分でもやれるんだ」という感触を現場のメンバーがつかみ、マインドチェンジが生まれているように思います。
これまでデータ・AI活用は、「どこかの誰かがやる特別な取り組み」という意識がありました。それが今は「データ・AI活用って面白いんですね、こういう形で使えませんか?」というアイデアがたくさん出てきています。うれしい変化です。
――「グロースX AI・DX人材」では、AI企画を考えるワークショップを行います。そこで生まれた企画で記憶に残ったものがあれば、教えてください。
森田さん:コールセンターにおけるオペレーション改善案ですね。
ハイパフォーマーの画面操作を画像認識AIを使って分析することで、大勢の現場メンバーに、より解像度の高い業務改善フィードバックを戻すことができるというアイデアです。これは、非常に印象に残っています。
北出さん:私は「データ図書館」というアイデアですね。
当社は多くのクライアントへ運用業務を提供しているということで、ナレッジが散逸しがちなんですね。「このテーマ、他の人もやってるはずなのに、誰に聞いたらいいか分からない」というケースが多く、資料の場所もわからないのでイチから作る、といったムダが発生していました。
この問題を解決するため、ある参加者から「データ図書館を作りたい」という提案があったんです。「図書館」というフレーズに全員が共感を覚え、ぜひ実現したいという話になりました。まだ形にしていく段階ではありますが、何らかの形で実現したいと思っています。
――今後、「グロースX AI・DX人材」を他の企業におすすめするとしたら、どういう説明をされますか?
森田さん:データを活用される企業は、すべからくこうした知識を持つことをおすすめしたいですね。データ・AI活用の本質は、スピードを上げることだと考えております。意思決定のスピード、事業のスピード、売上をあげるスピード、それらを人間が行なうよりはるかに速くできるわけです。
本コースは、このスピードを上げるのにとても有効だと思います。例えば、本コースを受講し社内にデータ・AI活用について共通言語ができていれば、「これは予測系・拡張型・T字型の活用だよ」という説明で、これまでは数時間説明しても伝わらなかった内容を30秒で理解してもらうことが可能になります。激しい競争下にあり、スピードに価値を置いている企業には受講をおすすめします。
北出さん:別の観点でいうと、専門家「以外の」全員が研修を受けるべきだと思います。
当社クライアントの事例でも、早い段階でデータ・AI活用に取り組まれたものの、ある種の踊り場を迎えられているケースがあります。詳しく伺うと、本社部門で立ち上がったデータ・AI推進の部署が主導する一方、周囲の部門は必ずしも同じ温度感になかったりします。
「ガッツリ投資してリソースかけてるけど、結局何が変わったの?」みたいな。一部の選抜メンバーに教育を施しても、それを受けていない他部門の理解は進みにくい現状があるように思います。そうではなく、「専門家以外の全社員に受けてもらおう」というのがこのAI編のメニューだと思いますね。
北出さん:これは問題意識を共有したい思いで話すのですが、もう少し危機感を持った上で受講する意識があってもいいと思います。「このままでは、自分たちのビジネスは5~10年後には立ち行かなくなる」というような。
以前は、こういうホラーストーリーは好きではありませんでした。でも、状況は変わってきたと思います。データやAIを「簡単ですよ、とっつきやすいですよ」と言い過ぎた結果、本質的なインパクトがあるものではなく、リターンの小さなところにばかり取り組む動きが出ているように思います。
「このままではダメだ」という危機感を持った上で、グロースXを受ける心構えがあっていい。本質的な危機意識を持った上で、企業内のデータ・AI活用を推進していくのがわれわれの役目です。
――ありがとうございます。
森田さん:われわれはアウトソーシングが本業で、データ・AI活用はその手段です。クライアント企業様の売上や利益、その先にあるエンドユーザーに対して価値提供していくことが、ひいては社会のためになると思っています。
今後ともデータ・AI活用を通じ、新しい価値の創造と提供を続けていきたいと思います。
インタビューご協力:トランスコスモス株式会社 様
(取材・文:澤山モッツァレラ)